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憲法裁判の記録が大量廃棄されたが裁判所職員の意識の稚拙さも原因!

 

私は裁判所の職員でした。早期退職しましたが。

今般、重要な憲法裁判の記録が大量に廃棄されていることが発覚しました。でも、裁判所職員は何とも思っていないはずです。記録廃棄なんてのは、機械的に仕事するだけですから!

 

しかし、戦後日本社会のルールを作ってきた憲法訴訟の記録が大量に廃棄されていたことは事実です。判決文は通常事件でも50年は残されます。運用として、判決文の廃棄はしていません。

 

問題は、憲法訴訟の結論がどう導かれたのか、当事者の訴えを裁判所は正しく受け止めたのかを検証するには、審理過程の記録が不可欠だということです。

それが永遠に失われたことによる損失はあまりに大きいのです。

 

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憲法裁判の記録を廃棄することなんて裁判所職員には何のためらいもないのが実状です!

自衛隊に対して一審の札幌地裁で違憲判決が出た長沼ナイキ訴訟や、沖縄の米軍用地の強制使用を巡る代理署名訴訟をはじめ、合憲違憲などが争われた戦後の重要な憲法関連裁判の記録多数を全国の裁判所が既に廃棄処分していたことが発覚しました。

裁判所の記録廃棄の過程は、単に機械的に廃棄記録を抜き出すだけです。

裁判所の記録廃棄は、裁判所が定めた『事件記録等保存規程』によって行われます。

『事件記録等保存規程』というのは、裁判所法という法律によって、裁判所に委託された規則の性格を有します。

 

法律は国会で定められますが(裁判所法もそうです)、規則であれば裁判所だけで自由に制定が可能です。

 

『事件記録等保存規程』には、重要な憲法判断があった事件など,史料的価値が高い事件記録等については,特別保存に付する(事件記録等保存規程第9条第2項)という規定もあるのですが、この規定の基準がかなりあいまいなんです。

 

ですので、廃棄担当の「記録係」という部署は単に機械的に、保存年限のきた記録を抜き出して捨てているだけ、というのが実状です。

 

「最高裁の事務総局作成の裁判所における文書管理」です。10頁の別紙5に注目!

 

※特別保存の基準なんてありませんから。今回、この基準さえ明確であれば、歴史的資料が灰になることはありませんでした。

 

※つまり、最高裁ですら、憲法の重要性を認識していなかったと断言できます。最高裁が基準を具体的に作っておけば良かっただけの話です。

 

最高裁は「各裁判所の判断」で廃棄されたと説明していますが、各裁判所の所長はまず関与していません。せいぜい総務課が関与するくらいです。記録係の係長の判断で憲法裁判の記録がポイって廃棄された可能性もあると思われます。

重要な憲法裁判の記録でも簡単に廃棄する裁判所職員の心理とは?

保存年限のきた記録は、はっきり言って邪魔なんです。場所を取りますから。

 

例えばですが、ある社会性の高い職員が「この記録は、あの著名な憲法裁判のものです。特別保存に付するべきではないでしょうか?」と上司に提言したとします。上司としてはめんどくさいんです。

 

裁判記録って、かなり大量に作成されます。日々、溜まっていきます。憲法裁判の記録なんて、厚さが何メートルにも及ぶことがザラでしょう。

そのスペースが空けば、ほかの記録を置くことができるんです。つまり憲法裁判の記録って、記録を管理する係にとっては邪魔なんですよ。

 

著名な憲法裁判の記録を特別保存に付するとしても、場所の確保が必要になるんです。そのために記録庫を増設するには予算が必要です。そんな予算折衝のために行動することは、上司にとっても最高裁にとっても、通常の仕事以外の業務になるわけです。

 

そんな社会的使命にあふれた裁判所職員なんて皆無ですよ!

 

ですので、最高裁が定めた『事件記録等保存規程』に乗っ取って仕事を進めた、と説明すれば足りますから簡単なんです。

 

最高裁としても「各裁判所の判断」で廃棄したと説明できますからね。

 

もう、古いかび臭い記録なんて邪魔で邪魔で仕方ないわけです。規程通りに捨てたよ!って説明すれば、お役所仕事ですから、世間的には通用すると思っているわけです。

 

ほんのちょっとの著名憲法裁判の記録は保存されているようですが、よほど有名で、かつ、志の極めて高い職員がいたと推測されます。

 

裁判所職員は本当にめんどくさがりです。法律を前提に仕事しているものですから、規則や規程など、何か根拠があるのなら、それを盾にポイポイ迷うことなく記録を捨てますよ。

 

著名憲法裁判なんてどうでもいいんです。捨てる根拠があればいいんです。独断ではなかったという、お墨付きさえあれば安心できるんですから。

さいごに

最高裁なら当然に知っている話ですが…

裁判記録の保管に携わっている記録係って、実は烏合の衆なんです。記録係という独立部門は小さな裁判所にはありません。しかし、大規模庁には必ず設けられています。

 

私が以前勤めていた大阪地裁にも記録係はありました。しかし、係長を除けば! 新人やどこの部署でも務まらない職員だらけでした。

 

中には、仕事中に掃除をしたり、職員にお茶出しをするしか能のない職員もいました。それでも50代でしたから、月収で40万円ほどは固かったはずです。お茶出しと掃除だけですよ!!

 

著名憲法裁判は、たいてい大きな裁判所で行われてきました。でも、その後の記録保管に携わる者は、裁判所のどこの部署でも務まらない人間の集まりということを知ってほしいと思います。

 

今回の、重要な憲法訴訟の記録大量廃棄は、そんな現状のもとでなされたことが明らかです。裁判所の社会的責任なんて、これっぽっちも考えない人の下で大切な憲法裁判の記録が保管されていたのですから。